領域別研究会に期待されるもの 〜健康領域研究の立場から〜

宮側敏明(大阪市立大学)

 鶴は千年、亀は万年といわれていますが、実際はそんなに長生きはできなくて、アオウミガメの確実な最長寿命が33年。長寿とされるガラバオス産の亀でも152年という不確かな記録がある程度らしいのです。鶴はもっと短命でヒトにしましても、病気をせず長生きしても、やはり110年くらいが限界のようです。 どんな生物にも、ある一定の寿命があります。しかし、不老不死を夢みてきた人は、昔から数えられないくらい多く存在します。ルール大学(ドイツ)のカール・エツサー教授の研究室では、「ポドスポラ・アンセリナ」というカビの一種が、染色体に突然変異がおこると長命になることを発見しています。突然変異をおこした変異種は3種であり、このうち2つの突然変異が組み合わさって重複突然変異をおこした種が、不老となるそうです。この原因には、ミトコンドリア内のDNAに秘密があるようです。最近では、クローン人間の誕生さえ夢ではなくなりそうで、ヒトの生命はいろいろな形で継続されようとしています。また、少子高齢社会を迎えた今日、健康への関心はますます高まる傾向にあります。ことに、書店に並ぶ健康読本、あるいは、テレビショッピングの主役である健康器具や健康食品の多さにはあきれるばかりです。しかし、これらがもたらす経済効果 は大変なものです。仕掛け人にとっては、どんな商品でも「健康」という2文字をつければ、商品の売れ行きが伸びるとくれば、おそらく笑いが止まらないでしょう。このことは、単なる健康ブームではなく、少子高齢社会に対する強い不安の裏づけであるといえます。いくら医学が進歩しても病人は増えており、健康で人生を全うしたいという願望が強くなるのも当然といえましょう。しかしこれほど日常で多用される言葉でありながら、いざ「健康とはなんですか?」と問われると、たいていの人は、言葉を詰まらせるものです。”健康とは?”と問われる前に、何らかの形で識っている(知識として知っているのではなく、体験として捉えること)ことが大切です。
 誰もが健康でありたいと思っています。では、いったい健康とは何か。やはり、わかっているようでも言葉にだしていうことは簡単にいきません。広辞苑によりますと、「すこやかなこと、無病、達者、丈夫」とありますが、漠然としていてよく理解できません。

 健康のことは、日本では昔から「まめ」といっています。この言葉は関西でも、挨拶代わりによく耳にしております。この言葉の意味は、「豆がコロコロところがるように、心と体とが、心から体・体から心へと、なんのひっかかりもなく動いてゆくこと」をいったものだそうです。すなわち、"心"と"体"とが一つになって動いてゆくことで、仏教でいう「身心一如」を和らげて言い換えたものであるともいわれています。この「身心一如」というところに人間の生命があり、それが真の健康な姿であるといわれます。ところで、「まめに働く」といえば、「健康でよく働く」ということのほかに「骨惜しみしないで忠実に働く」という意味もあるようです。  そこで、本シンポジウムでは、以下の問題を中心に討論したいと思います。

 1. 心身の活動と健康
 2. 健康の定義の再確認
 3. 新しい健康の考え方
 4. 運動・スポーツと健康

 おわりに、日本は世界一の長寿国となりましが、最近では、それを誇らしくいう人はいなくなりました。それは、高齢者社会に対する不安の強さと国民がただ長生きすることで満足しなくなり、そこでは生きている質を求めてきたからです。いくら医学が進歩しても、病人は増えており、病気と健康という私たちのからだを二つに分けることが次第に困難となっています。また、体力があるからといって、健康であるとは限りません。これを機会に、QOLの向上を求めて生活を送くることこそ大切と思います。